柳瀬市の公民館の夏祭り準備に関する奇妙な記録

霧島秀一撮影。公民館のひさしの下で、紺の半袖シャツを着て椅子に座る男性の後ろ姿。首に小さなタオルを掛け、頭と肩の上に細かな水滴が見える。奥の庭には日が差している。

地方の公民館で行事の準備を手伝う人の中には、雨の日にだけ必ず顔を見せる人が存在することがある。

北都県柳瀬市の公民館では、毎年7月の夏祭りの前に、近所の人が集まって道具を準備する。倉庫から長机や提灯の枠を出し、庭で脚の緩みや破れを確かめる。提灯は30個ほどあり、破れた紙はその場で貼り替える。雨が降れば道具を玄関へ運び込み、ひさしの下で作業を続ける。世話役は出欠表を付け、その日の天気と作業の内容を欄に書いておく。天気を書くのは、雨で中止にした日や、作業を延ばした日を後で数えるためだという。

2023年7月9日、日曜日。私はこの準備の様子を撮りに来ていた。その朝は、雨が降ったりやんだりしていた。手伝いに来た住民の小松崎定夫さん(72歳)は、庭へ出した長机の脚を確かめていた。雨が強くなったので、皆で道具を玄関へ運び込み、ひさしの下に集まった。

小松崎さんの紺の半袖シャツは、机を運ぶ間に肩から背中まで濡れていた。世話役の臼居香枝さん(65歳)がタオルを持ってきた。小松崎さんは顔を拭いて首へ掛けた。私たちは、濡れた髪から水が滴っているのだと思った。

雨脚が弱まり、ひさしに落ちる音がやんだ。向かいの家に日が当たり始めた。それでも小松崎さんの髪には、水滴が当たり続けていた。額を拭くと、その上へまた粒が落ちる。隣に立っていた私の肩には、何も落ちてこなかった。小松崎さんは首のタオルを頭へ掛けた。タオルの上にも小さな水滴が当たっていた。

臼居さんが、ひさしから漏っているのではないかと言った。小松崎さんは壁際へ寄ったが、頭の上では同じように粒が落ちる。先ほど立っていた床には、それ以上水が落ちてこなかった。

私は横から頭上を見た。水滴が見えるのは、頭から手のひら1枚分ほど上の、何もない所からだった。その上には、乾いたひさしの裏板まで空間がある。私は脚立を借り、その裏板を手で触った。板は乾いていた。小松崎さんがしゃがむと、粒の落ち始める高さも下がった。私はスマートフォンで雨雲の様子を表示する画面も開いた。公民館の辺りに、雨雲はもうかかっていなかった。

玄関を上がればやむかもしれない。臼居さんがスリッパを出し、小松崎さんは靴を脱いで廊下へ入った。私は横についていった。天井の下でも、頭と両肩の上へ細かな雨が降っていた。髪を伝った水が耳の後ろを流れ、シャツの襟へ入った。

私は小松崎さんの頭の上へ手を差し出した。手の甲に粒が当たり、指先から流れた。手を脇へ引くと、私の指には新しい水滴が当たらなくなった。

小松崎さんは、寒くなってきたと言った。臼居さんは近くの自宅へ着替えを取りに行き、私は小松崎さんと玄関へ戻った。床を濡らすのが気になるというので、靴を履き直し、ひさしの下に出した椅子へ座ってもらった。

「見ていて、普通の雨ですか」

小松崎さんに尋ねられ、私は、降っている所だけが違うと答えた。小松崎さんは手を頭の上へ出し、顔の前へ戻して見た。私には濡れた手のひらが見えた。

小松崎さんは、自分の様子を写真に残してほしいと頼んだ。どうなっていたか、あとで説明できるようにしたいという。私は本人の了承を得て、ひさしの下に座る後ろ姿を撮った。背景には日の当たる庭も入れた。

臼居さんは大きな白いタオルと、家にあった白い半袖シャツを持って戻った。小松崎さんは玄関脇の小部屋で着替えた。出てくると、白いシャツの肩にはすでに濃い染みができていた。脱いだ紺のシャツと首のタオルは、臼居さんが袋へ入れ、椅子の隣の台へ置いた。

頭へ大きなタオルを掛けると、水が顔を流れるのは減った。ただ、タオルは上から濡れ続ける。臼居さんが私の傘を借りて差しかけても、傘の内側で粒が落ちていた。私は乾いた傘の裏を見てから、臼居さんから受け取って畳んだ。

私は、小松崎さんがひさしの下、廊下、椅子へと移る間を見ていた。そのたびに水は頭の上から降り、離れた所ではやんだ。どこかの水漏れの下へ偶然立ち続けた、という動きではなかった。水滴が何からできているのかは分からない。

小松崎さんの家は、歩いて10分ほどの所にあるという。臼居さんが、先に家へ連絡しておこうかと尋ねると、自分ですると答えた。しかし、鞄から出した電話は、濡らさないよう台へ置いたままだった。

「帰って、玄関で止まらなかったら、何と言えばいいんでしょう」

小松崎さんは妻と暮らしている。雨に濡れたと言えば、着替えを出し、タオルで拭くよう言うだろうと話した。それではやまなかったことを、自分でもまだうまく話せないという。

臼居さんは、去年の夏から気になっていたことがあると言った。公民館の事務室から出欠表の綴りを持ってきて、私に見せてくれた。去年の8月から先月までに、行事の準備や清掃の日は8回あった。小松崎さんが来たのは4回で、天気の欄はどれも「雨」か「雨のちくもり」だった。晴れた4回は、どれも「用事」で欠席している。

「雨の日ほど来てくださるので、助かると思っていたんです。皆が嫌がる日に来てくれる人だと」

去年の8月、盆踊りの準備の日、雨がやんだ後も小松崎さんだけが庭に立っていたのを、臼居さんは覚えていた。濡れるのが好きなのだと言って、笑っていたという。

私が尋ねると、小松崎さんは否定しなかった。去年の夏から、ときどき自分の上だけ雨が残るようになった。雨の日なら、外を歩いても誰も気に留めない。家でも、雨に降られたと言えば済んだ。晴れた日に誘われると、断っていたという。家の中で降り始めたことはない。降るのはいつも、外で雨に濡れた後で、ひと晩たてばやんでいた。今日は、降ったりやんだりの予報を見て、大丈夫だと思って来た。

「言ってくだされば、晴れた日は中の仕事をお願いしたのに」と臼居さんが言った。小松崎さんは、中に入っても降り続けるから、と答えた。

私が見たことなら一緒に説明できる、と伝えた。小松崎さんは礼を言い、写真は後で送ってほしいと頼んだ。今すぐ誰かを連れて帰るのは、少し待ちたいという。

臼居さんは、いつまでも濡れたままではいられないと言った。小松崎さんはうなずいた。臼居さんが持ってきた温かいお茶を飲み、タオルの片側を持ち上げて庭を見た。

庭の端に、小さな丸い染みができた。いくつか続いた後、ひさしをたたく音が戻った。臼居さんも庭を見て、また来た、と言った。

小松崎さんは立ち上がった。頭へ掛けていたタオルを台へ置き、白いシャツの袖を引いた。肩へ水滴が当たっていたが、それを拭かずに、台の電話へ手を伸ばした。

「今、公民館。雨で帰れなくなっていた。これから帰るから」

電話を切ると、小松崎さんは、玄関まで帰れれば、そこで話せるかもしれないと言った。白いシャツを借りたことも、妻に説明するつもりだという。私は、台へ置かれた濡れたタオルと、紺のシャツの入った袋を、本人の了承を得て撮った。

霧島秀一撮影。公民館のひさしの下の小さな台に、水を含んだ大きな白いタオルと、濡れた紺の半袖シャツが見える開いた袋が置かれている。
霧島秀一撮影。2023年7月9日、帰る前に台へ置いたタオルと、着替えで脱いだ紺のシャツの入った袋。

私が傘を開くと、小松崎さんは手を振った。

「差して帰ると、傘があるのにどうして、となるでしょう」

小松崎さんは濡れたタオルも袋へ入れ、口を結んだ。臼居さんには、家へ着いたら電話すると伝えた。臼居さんは出欠表の綴りを閉じ、今日の天気の欄に「雨」と書き入れた。

小松崎さんは袋を抱え、ひさしの外へ出た。頭の上の粒が、庭へ降る雨に紛れた。通り掛かった人は傘を開いた。小松崎さんはその横を通り、またやむ前に帰りたいと言って、歩調を速めた。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 ※ が付いている欄は必須項目です