南條市の民家の木の脚立に関する奇妙な記録

霧島秀一撮影。庭の青いシートに、畳んだ木製脚立の上半分が横たわる。上板に白い塗料跡があり、途中まで残った木の脚の先が細くねじれ、シート上の茶色い紐へ続いている。

隣近所で道具を貸し借りすると、返すときに少し手を掛けることがある。運ぶ間に開かないよう紐で縛る、汚れを拭く、といった程度のことだ。その紐をほどいたとき、道具の方がほどけることがある。

2024年8月24日の土曜日、北都県南條市の森川寿夫さん(73歳)から電話があった。貸していた木の脚立が、紐になってしまったという。私は市内におり、1時間ほどで森川さんの家を訪ねた。

脚立を借りていたのは、隣に住む辻村昌子さん(65歳)だった。窓の外へ日よけの布を掛けるために借り、返しに来たところだった。辻村さんも庭に残っていた。土の上に敷いた青いシートには、木の脚立の上半分と、その下に幾重にも曲がった紐が載っていた。畳んだ脚立の脚はどれも途中で終わり、その先が同じ茶色の紐へつながっている。切れた木片や、外れたねじは見当たらなかった。

脚立は木製で、開くと両側から上がれる。30年ほど前に市内の金物店で買った物で、畳むと大人の胸ほどの高さになる。森川さんは窓の上や庭木に手を伸ばすときに使っていた。2019年に庇を塗り直した際、いちばん上の板に白い塗料が付いた。シートに残った板にも、乾いた白い跡があった。

その朝は、森川さんも自宅の日よけを張っていた。上の端を庇の金具に掛けたところで、辻村さんから脚立を借りたいと声を掛けられた。森川さんは脚立を貸し、布の下側に結んでいた古い紐を外して待っていた。古い紐がほつれていたので、取り替えるつもりだったという。古い紐は窓の下の台に丸めて置いてあった。5年前に柵へ結んだ物で、日に焼けて色が薄くなり、ところどころほつれている。

辻村さんは自宅の庇に日よけを掛け終えると、脚立を畳んだ。運ぶ間に脚が開かないよう、家にあった茶色の荷造り紐を中央に1周させて結んだ。

「借りた物なので、角をぶつけないように、両手で持ってきました」

森川さんが受け取り、庭に立てた。辻村さんが片側を支え、森川さんが結び目をほどいた。短い端を引くと輪が開いたが、紐は脚立から離れず、まだ長く出てきたという。

巻き付いていた紐の続きは、手前の木の脚の下端へ入っていた。森川さんが手を止めても、角のある脚が先からねじれ、細くなった。木目が斜めに回り込み、茶色い筋の撚り合わさった紐に変わっていく。辻村さんが支えていた段板も片側から狭まり、下へ垂れた。2人は脚立を地面に下ろした。森川さんが引いていた端を離すと、動きは止まった。そこまでの経過は、2人からその場で聞いた。

まず、初めから紐を巻いて作った脚立ではないかと考えた。細い紐を木の芯に巻き付け、上から塗装した道具なら、ほどけて見えることもあるかもしれない。私は森川さんに断って、残った板を指の腹で押した。厚みがあり、硬い。端を見ると、木の断面に年輪の筋が通っていた。巻いた紐の層はない。森川さんも、ほどける前の脚立に、紐を巻いたような溝はなかったと言った。板の両端から伸びる脚は途中で幅を失い、丸い紐になっていた。薄く削った木を巻き付けたような境目はなく、板の木目が紐の茶色い筋へ続いて見えた。

辻村さんは家へ戻り、使った荷造り紐の残りを持ってきた。紙を細く撚った紐で、茶色の巻きの外側に、まだ数メートル残っている。去年買った巻きで、古新聞や段ボールをまとめるのに使ってきたという。シートの紐と並べると、色も太さも撚り方も同じに見えた。紙は木から作る。だが、木の脚立が紙の紐になる理由にはならない。

私は巻き尺を借り、シートの紐を端から端まで測った。約26メートルあった。辻村さんが巻いたのは脚立の中央を1周する分で、1メートルほどだという。残りの25メートルほどは、脚立の脚と段板だった物ということになる。

森川さんが、紐の上に重なっていたシートの端を戻そうとした。シートを引いた拍子に、その下の紐が少し動いた。残っていた段板の右端が、内側へ巻いた。

森川さんはシートから手を離したが、段板は動き続けた。白い跡のある表面が縦に細くなり、板の裏が持ち上がる。平らだった木が一本の太い筋になって回り、その筋が細く撚れた。シートへ落ちたときには、白い線の入った紐になっていた。板の両側に残っていた木も細くなり、上端の金具は光りながら曲がって、茶色い筋の間へ巻き込まれた。最後に紐が一度跳ねて、シートへ落ちた。2人とも手を出しておらず、私はその横で見ていた。誰かが脚立を同じ色の紐とすり替える間もなかった。

森川さんがしゃがみ、白い部分を指した。板の上にあった塗料が、短い線に分かれて紐の周りを回っていた。紐を持ち上げると、柔らかく垂れた。金具だった所だけが、紐の中で硬い粒のように指に当たった。辻村さんは、自分が巻いた紐も混ざっているはずだと言い、境目を探した。しかし、シートには両端のある長い一本が残っているだけだった。結び目も、つなぎ目もない。辻村さんの紐と脚立の紐は、どこで分かれるのか分からなくなっていた。

「同じくらいの高さのを、買ってお返しします」

辻村さんが言うと、森川さんは、紐を結んだせいかどうかも分からないから、今日は決めなくてよいと答えた。元の形にできないか、と辻村さんは続けた。森川さんは白い線を指でなぞったが、何も言わなかった。

その白い跡について、森川さんが話してくれた。2019年に庇を塗ったとき、脚立を下で押さえていたのは、辻村さんの夫だった。近所で高い所の作業があると、よく手伝いに呼ばれていた人だという。塗料の缶を手渡す途中で、缶の縁が板に当たった。辻村さんの夫は2022年に亡くなった。

「主人が、ここに缶をぶつけたんです。森川さんに謝って、自分で拭こうとして、かえって広げてしまって」

辻村さんはそう言って、シートの白い線を見た。借りたときにも、その板に手を掛けて上がったという。

窓の外には、森川さんが上だけ掛けた日よけが垂れていた。布の下の角には、古い紐を外した丸い穴がある。森川さんは立ち上がり、庭の腰ほどの高さにある柵と、布との間を見た。

「こっちは、今日のうちに張ってしまいたいです」

森川さんは物置から鋏を持ってきた。脚立から出た紐の端を日よけの穴へ通し、柵まで引いた。布を少し斜めに張れる長さを残し、紐の途中をつまんだ。辻村さんはシートの脇で、残りを持っていた。森川さんが鋏を開くと、紐を自分の方へ少し戻した。

「切ったら、脚立には戻せなくなりませんか」

森川さんは鋏を止め、戻し方は知らない、と答えた。そのまましばらく待ち、辻村さんが手を緩めると、つまんでいた所を切った。木の割れる音はせず、細い繊維の切り口が開いた。

私は2人の了承を得て、柵に結ばれた紐と、シートに残った分を撮った。日よけの片側が庭へ張り出していた。森川さんはもう一方の角へ回り、辻村さんに紐の端を渡してほしいと頼んだ。

霧島秀一撮影。窓から垂れる日よけ布の下の角が、茶色い紐で庭の低い柵へ結ばれている。足元の青いシートには同じ色の長い紐が曲がって載っている。木の脚立はない。
霧島秀一撮影。2024年8月24日、同じ庭。日よけの下の角と柵を結んだ茶色い紐。青いシートには、切った後の長い部分が残っている。

辻村さんが端を拾うと、切り口の少し先に白い線があった。そこを指で挟み、森川さんに見せた。

「上の板だった所ですよね」

森川さんはうなずいた。辻村さんは白い部分から手を離さず、続く茶色い部分をもう片方の手で持ち、両手の間に紐を渡した。

「ここだけ、もらってもいいですか」

森川さんは白い部分を避け、辻村さんの両手の間で紐を切った。長い方を受け取ると、日よけの穴へ通した。辻村さんの手元には、白い線のある短い紐が残った。森川さんが布を結び終えるまで、辻村さんは両手でその紐を真っすぐに伸ばしていた。

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