新宿の雑貨店の防犯カメラに関する奇妙な記録

情報提供者提供の防犯カメラ映像。夜の横断歩道の手前に大人2人と子ども2人がいる。左の大人が白い買い物袋を持っている。

店先の防犯カメラの録画には、画面の時刻だけが進み、その間に映っているはずの動きが抜け落ちた数秒が残ることがある。

新宿区西側の商店街に、加藤信昭さん(62歳)が営む雑貨店がある。入口の上に取り付けたカメラには、店先と前の横断歩道、その向こうのクリーニング店までが入る。録画は店の奥の録画機に保存され、2週間ほどたつと古い順に上書きされる。万引きや店先の事故があったとき、さかのぼって確かめるための物で、普段は誰も見ない。

2020年11月15日の朝、加藤さんが店を開けると、店先に見覚えのない自転車が置かれていた。鍵はかかっていて、持ち主の手掛かりになる物は付いていない。前の晩、店を閉めた19時半には、その場所に何もなかった。店先は狭く、自転車が1台あるだけで、車いすやベビーカーのお客さんが入口へ寄りにくくなる。加藤さんは、誰がいつ置いたのかを確かめようと、前日の夜の録画を見返した。

20時10分の画面では、店先はまだ空いている。20時20分の画面には、入口の左下に自転車が立っている。加藤さんはその10分間を少しずつ再生した。

20時14分の少し前、家族連れに見える大人2人と子ども2人が、歩行者信号に合わせて横断歩道を渡り始める。画面の時刻が20時14分02秒になったところで、4人の姿勢が変わらなくなった。踏み出しかけた足は宙に浮いたままで、ほかの歩行者も、停止線で待つ車も動かない。時刻の表示だけが1秒ずつ進み、13秒後の20時14分15秒には、4人は向こうの歩道にいた。道を渡っている間の動きは映っていない。

そして、02秒の画面では空いていた店先に、15秒の画面では自転車が立っていた。

防犯カメラの録画機は、容量を節約するため、1秒間に数枚しか画面を記録しないことがある。そうした設定なら、速く動く物はとびとびに映る。それでも、道を渡る人が13秒間同じ姿勢で残ることはない。加藤さんは録画機の操作記録も開いたが、その時間に停電や録画の中断は記録されていなかった。

「誰が置いたかを見るつもりで再生したんです。それが、置いた瞬間だけが抜けている。最初は、録画機が古いせいだと思いました」

加藤さんが、知人を通じて私に連絡をくれたのは、11月16日だった。私は18日に店を訪ね、店の奥の録画機で、問題の前後を再生してもらった。送られたファイルを私の機械で見るときだけ起きる問題ではなかった。

録画機の不具合なら、同じ1枚の画面が13秒間繰り返し表示されているはずだ。そう考えて画面を止めて見ると、時刻の数字のほかに、暗い所のざらつきや街灯のにじみが少しずつ変わっていた。止まっているのは人と車の位置だけで、画面そのものは更新されている。

その中に、人や車より小さいが、形の変わる物があった。左側の大人が右手に提げている、白い買い物袋である。加藤さんによれば、20時14分08秒と11秒で止めて比べると、袋の薄い底が違う方へ折れていた。持っている指と腕の位置は変わらない。

下の画像は、加藤さんが映像から切り出した袋の部分である。どこを見たのかは示せるが、この1枚だけでは動きを確かめることはできない。

店主提供の防犯映像の一部。黒い上着の大人が右手に白い買い物袋を提げている。袋の薄い底に折れ目が見える。
加藤さん提供。2020年11月14日の防犯映像から、白い買い物袋の部分を示した画像。

画面全体が同じ1枚を繰り返している、と考えるには、袋の変化が合わない。ただ、映像の一部だけが更新されない不具合もありうる。私がそう話すと、加藤さんは袋の底を見ていてほしいと言った。

加藤さんは録画をもう一度再生し、時刻が20時14分08秒になると、手にしていたボールペンで白い袋を指した。ペン先は画面に触れていない。袋の底が、その先へ向かって細く突き出した。

ペンを左へ動かすと、突き出た部分も左へ曲がった。右へ戻すと反対へ折れる。袋を提げる腕と指は止まったままだった。ペンを画面から離すと、袋の底は垂れ直した。時刻は14秒を示し、次の秒には4人が向こうの歩道へ移っていた。

私が持っていたのはメモ帳で、録画機には触れていない。加藤さんのもう片方の手も机に載っていた。私たちが見ているのは4日前の録画だったが、白い袋だけが、今その前で動かす物へ寄ってきた。

同じ4人を別のカメラが撮っていないか、私は向かいのクリーニング店に尋ねた。店主が見せてくれた録画には、同じ服装の4人が映っていた。子どもが先に歩き出し、大人が続いて、約10秒で向こうの歩道へ渡り終える。袋を持った大人が最後に歩道へ上がり、そのまま雑貨店の前を通り過ぎた。

2台の録画機の時計は少しずれていたため、同じ表示時刻の画面を並べるだけでは比べられない。4人より先に通った車と、その後に通った自転車を両方の映像で探すと、前後の順序は一致した。その間の横断が、雑貨店では抜け、クリーニング店では続けて映っていた。4人が実際に道の途中で止まったわけではない。

クリーニング店のカメラには、雑貨店の入口のすぐ下が入らない。自転車を置く動作が撮れていたかは分からなかった。その録画も、保存を頼む前に上書きされた。

「うちのは古い機械で、1週間ほどで消えてしまうんです。言ってもらえれば残したんですけど」と、クリーニング店の店主は申し訳なさそうに言った。私の手元には、見た順序を書いたメモしか残っていない。

11月25日、私は雑貨店をもう一度訪ねた。加藤さんは、問題の場面の前後を含めた録画をUSBメモリに複製して渡してくれた。あわせて、4人が止まって見える13秒を切り落とした、短い確認用の映像も作っていたと話した。誰かに説明するとき、乱れた部分がない方が見せやすいと考えたからだという。

その日、私は袋の底が折れていた理由を、もう一つ聞いた。

「15日の朝に初めて見たとき、指で画面の人数を数えていたんです。それから、袋の所で止めて、ペンで指しながら見比べました。だから08秒と11秒で形が違うのは、録画のせいだと思っていました」

加藤さんが接客で店先へ出ている間に、私は店の奥で、受け取った複製をノートパソコンで一人で再生した。画面には何も近づけず、手も膝の上に置いた。13秒の間、袋の底は一度も動かなかった。08秒の画面と11秒の画面を並べても、折れ方は同じだった。

私は、袋の変化を、画面が更新されている証拠として扱っていた。だが、そのとき袋を動かしていたのは、録画を見ていた加藤さんの指とペンだったのかもしれない。誰も指していなければ、13秒の間、人も車も袋も止まったまま、時刻の数字と暗い所のざらつきだけが進んでいく。

加藤さんは、映像に近所の人が見えるというだけで、その人へ自転車を置いたのかと聞くのをやめた。自転車には、置かれていた日と移動をお願いする文を書いた紙を付けた。

「向かいの録画では、あの4人は普通に渡っていたわけでしょう。うちの映像に映っていたというだけで、誰かを疑うのは違うと思ったんです。置いた人が名乗り出てくれれば、それでいい」

切り落とした確認用の映像と、切っていない元の録画は、両方とも保存してある。

奥へ戻った加藤さんに、袋が動かなかったことを伝えた。この日までに、自転車の持ち主は現れていない。加藤さんは、店先のどの辺りに自転車が現れたのかを私に教えようとして、録画の画面へペンを近づけかけた。途中でペンを机に置き、店の外へ私を案内した。11月14日の夜から、自転車は同じ場所に立っている。自転車のかごには、移動をお願いする紙が結び付けられていた。

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