南條市の民家の庭のバケツの線香花火に関する奇妙な記録

霧島秀一撮影。コンクリートの上に水入りの金属バケツがあり、黒く焼けた細い紙が沈んでいる。隣の浅い金属盆には、先までよられた濡れた赤い線香花火が1本載っている。

家の庭でする花火の袋には、ときどき火のつかない「不発」の1本が混じっていると言われる。翌朝の片付けでその1本が見つかっても、たいていは湿気たのだろうと考えて捨ててしまう。

北都県南條市の福士利章さん(72歳)は、毎年夏に近所の友人を自宅へ招き、夕食の後に庭で花火をする。終わった花火は、水を入れた金属のバケツへ沈めておく。燃えかすが十分に冷えて湿ったのを確かめてから、翌朝ごみに出すためだ。未使用の袋は、火の元から離して玄関に置く。

2024年7月6日の土曜日の晩も、福士さんはこうして花火をした。翌7日の朝、バケツから燃えかすを取り出そうとして、焼けて欠けていた線香花火の先が元に戻るのを見たという。その連絡を受け、私は昼前に福士さんの家を訪ねた。

バケツは庭のコンクリート敷きに置いてあった。隣の金属盆には、濡れた赤い線香花火が1本ある。紙は先まで細くよられていた。福士さんによると、朝6時ごろに火ばさみで取り出したときには、この1本の先も黒く欠けていた。盆に置いて見ているうちに、先がよられた形に戻っていったという。ほかの燃えかすは水の中で黒いままだった。バケツの水は、昨夜、庭の水道から汲んだだけで、ほかには何も入れていないという。

近所に住む枝川千津乃さん(69歳)は、毎年、花火の翌朝に片付けを手伝っている。大勢の中で話し続けるのが苦手で、夜の集まりは断ってきた。福士さんとは長い付き合いで、誘いを断る代わりに何か手伝えればと思い、朝だけ来るようになったという。

この日も、枝川さんはごみ袋を持って約束の時間に来た。福士さんが、まだ捨てられない花火があると伝えると、火が残っていたのかと聞いた。福士さんは、先が元へ戻ったと答え、盆の赤い1本を見せた。

「燃えなかったのが、混じっていたんじゃないですか」

普通に考えれば、それがいちばんありそうな説明だった。私もそう考えた。ただ、福士さんは朝、この1本の先が焼けているのを見ている。不発の花火なら、初めから先は欠けていないはずだ。

数も確かめた。昨夜使った線香花火は、赤い紙の物が20本入った袋が一つで、集まった人たちで1本ずつ順に火をつけ、袋が空になるまで続けたという。福士さんがバケツの中を数えると、黒い燃えかすが19本あった。盆の1本と合わせて20本になる。火をつけずに残った1本が混じる余地はなかった。

枝川さんはそばの火ばさみを取り、水中の燃えかすを1本つまんだ。福士さんが話を続けようとしたときには、もう持ち上げていた。先が崩れた黒い紙が水から出た。その下を、底にあった小さな黒い粒が追い掛けてきた。粒は水面で止まらず、紙の先に付いた。

付いた所が赤くなった。福士さんが声を上げ、枝川さんはすぐ紙を水へ戻した。私たちはバケツから離れた。水中の赤い粒は消えなかった。沈んだ紙の先に付き、暗い底の方から来る細い光を受け止めていた。

線香花火は、紙の先に包んだ火薬が燃えて赤い玉になり、そこから細かい火花が外へ散る。火花が弱まると玉が落ちるか燃え尽き、紙の先は黒く焼けて縮れたまま残る。見えていた光は逆だった。紙から少し離れた水中で明るい筋が現れ、短くなりながら赤い玉へ集まる。筋の先端を目で追うと、どれも紙の方へ進んでいた。バケツの外で火をつけた人はいない。光っている間、私はバケツの縁に手を当てていた。金属は冷たいままで、水から湯気も出ない。火薬が燃えるときの煙のにおいもしなかった。

水の底に散っていた黒い粒も、少しずつ紙へ寄った。赤い玉は次第に小さくなり、黒く焼けた紙が赤い紙に変わっていった。欠けた所には、よられた先が伸びてきた。やがて光がなくなると、赤い線香花火が水中に横たわっていた。水は濁ったままで、ほかの燃えかすは黒いままだった。

私は、水に溶けた火薬が何かと反応した可能性を考えた。しかし、水の中で物が燃え続けることはない。仮に何かが反応して光ったのだとしても、焼けた紙が元の形に戻る説明にはならない。私は初めから終わりまでバケツの前にいて、誰かが別の1本と入れ替えるところは見ていない。

光も煙も出なくなってから、福士さんが火ばさみでその1本を金属盆へ移した。先に取り出してあった1本と並べると、紙の長さも、細くよられた先も同じに見えた。2本とも水を含んで盆に張り付いていた。私は福士さんに断り、盆の2本と、まだ黒い燃えかすのあるバケツを撮った。

霧島秀一撮影。浅い金属盆に濡れた赤い線香花火が2本並び、どちらも先端まで細く紙がよられている。横にある金属バケツの水中には、黒く焼けた紙が残っている。
霧島秀一撮影。2024年7月7日、同じ庭。水中の光が消えた後に移した1本を、先に取り出されていた1本と並べた。盆の2本は濡れ、バケツには黒い燃えかすが残っている。

撮り終えたとき、福士さんが、去年のもあると言い出した。

毎年、片付けの朝には、バケツの中に赤いままの線香花火が1本見つかったという。2人はそれを不発だと思い、福士さんが乾かしてから捨てていた。枝川さんが朝の片付けに来るようになった2018年から、毎年のことだった。今年の分を入れれば、7年で7本になる。捨てた5本がどんな紙だったかは、もう確かめようがない。去年の1本だけは捨て忘れ、台所の引き出しに入れたままだった。

福士さんが持ってきた1本は、乾いて少し硬くなっていた。赤い紙には、水に浸かった物に残る輪じみが付き、紙は全体に波打っている。先まできちんとよられているが、袋から出したばかりの花火の紙とは触った感じが違った。一度水に沈んでから乾いた紙だった。

「毎年、私が言っていたんです。燃えなかったのが混じっていたって」

枝川さんがそう言った。片付けの朝に赤い1本を見つけ、福士さんにそう伝えてきたのは、枝川さん自身だった。福士さんも、そのたびにそうだろうと答えていた。先が焼けていたかどうかを、2人とも確かめたことはなかった。

去年の1本を盆の2本の横に並べると、赤い紙の色も、よりの細かさも同じに見えた。去年の花火は、今年とは別の店で買った袋だったと福士さんは話した。

福士さんは、戻った花火に再び火をつけなかった。普通の燃えかすと同じように捨ててよいか、消防へ相談することにしたという。

枝川さんは、今の方が好きかもしれないと言った。

「落ちると思って見ていると、だんだん小さくなって、中へ入っていくんですね」

子どもの頃は、線香花火の玉を落とさないよう手元ばかり気にしていたという。この朝は離れた所から見ていられた。水へ沈めた後も、光が集まる所がよく見えたと話した。枝川さんは、あの紙に自分で火をつけたいとは言わなかった。

福士さんは、掃除に来てもらったのに何も進まなかったと言った。枝川さんは首を振り、持ってきたごみ袋を畳んだ。花火には触らず、昨夜使った椅子を拭き、空の飲み物の容器を集めた。その間も、バケツの方へ何度か顔を向けていた。

玄関へ椅子を運んだとき、枝川さんは未使用の花火が入った袋を見つけた。来月もう一度集まるつもりで、福士さんが残しておいた物だった。枝川さんは袋を開けず、透明な表から、長い棒の花火を指した。

「これも、あんなふうに戻るでしょうか」

福士さんは分からないと答えた。確かめるために火をつけるつもりはないという。枝川さんはうなずき、来月の集まりで使い終えた分を、水に浸けたまま取っておいてもらえればよいと言った。

福士さんが、来月は夜にも来ませんかと誘った。枝川さんは少し考え、やはり朝に来ると答えた。

「これ、皆さんでやっておいてください。終わったのを、私が見に来ますから」

福士さんは返事をせず、袋を棚へ戻そうとした。枝川さんは透明な袋越しに長い棒を指し、次はこれが見たいのだと、もう一度伝えた。

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