赤沢高原スケート場の手袋に関する奇妙な記録

スケート場の管理の男性撮影。透き通った氷の中に、白い模様の入った赤い毛糸の手袋が凍り込んでいる。

山あいの屋外スケート場には、毎年同じ場所の氷の中から、同じ落とし物が見つかることがある。

赤沢高原スケート場は、北都県の山の上にある天然のリンクだ。営業するのは1月初めから2月末まで。沢から引いた水を、冷え込んだ夜にホースで少しずつまき、薄い氷を何晩も重ねて、滑れる厚さにする。

管理員の長谷川和代さん(61歳)は、この氷作りを12年続けている。2015年の冬から、仕上がった氷の中に、子ども用の赤い左手袋が1つずつ見つかるようになった。白い花の模様が入った毛糸のミトンで、親指の部分と、残りの指をまとめて入れる部分に分かれている。

2022年1月4日、私は管理事務所で、長谷川さんが集めてきた8つを見せてもらった。2015年から今年まで、1年に1つずつ。どれも同じ形、同じ模様だった。

手袋が出る場所は、毎年ほぼ同じだという。リンクの北の端から約2メートル、表面から約5センチ下。地面に落ちていた物が底に埋まった形ではない。出来上がった氷の途中に、赤い形が透けて見える。

長谷川さんの説明では、氷は1晩に1センチほどずつ厚くなる。5センチ下にあるのなら、手袋は仕上がりの5晩ほど前、その夜の表面に載っていたことになる。

ところが、長谷川さんは水をまく前に、必ずリンクを歩いて落ち葉や枝を拾う。作業の手順を書いた日誌にも、毎晩の欄に「表面確認」の印がある。赤い手袋が表面にあれば気づくはずだが、片付けの途中で見つけたことは一度もない。今年も1月3日の朝、仕上がった面を確かめていて、その下に見つけた。

最初の年は、作業中に誰かが落とした物だと考えた。長谷川さんは拾得物の控えに書き、事務所の窓口に「お預かりしています」と掲示した。名乗り出る人はいなかった。客が帰る時刻に、場内放送で呼びかけたこともある。シーズンが終わっても持ち主は現れず、捨てる気にもなれないまま、事務所で預かり続けることになった。

「片方だけなくした子は、帰りの車でずっと手が冷たかったでしょう。取りに来たら、すぐ渡せるようにしておきたかったんです」

2年目からは、同じ物を毎年置いていく人がいるのではないかと疑った。2020年の秋、スケート場はリンク全体を映す防犯カメラを事務所の軒下に付けた。夜でも白黒で映る型である。長谷川さんは2021年と今年、手袋が載ったと思われる夜の録画を見直した。リンクに入っているのは、ホースを持った長谷川さんと、もう一人の管理員、塩谷健吾さん(64歳)だけだった。北の端に水をまくのは、毎年長谷川さんの受け持ちだという。

私も今年の録画の一部を見せてもらった。日誌から数えると、手袋が表面に載ったのは12月29日の夜前後になる。その晩、長谷川さんは21時すぎにリンクを一周し、腰をかがめて何かを拾い、北の端からホースで水をまき始めた。拾ったのは枝だったと日誌にある。水をまき終えた後、翌朝まで画面の中で動くものは、照明に寄ってくる雪だけだった。

録画の画質では、氷の中の赤い色までは分からない。手袋がいつ氷の中に入ったのか、映像で確かめることはできなかった。分かったのは、まく前の表面を長谷川さんが歩いて確かめていたことと、その後に誰もリンクへ入っていないことだけだ。

手袋は深く入っているため、靴の刃がすぐ引っかかる位置ではない。それでも異物を残したくないので、周りの氷を四角く切り取って回収する。穴は水を足して凍らせ直し、手袋は乾かしてから、拾った年を書いた袋に入れて事務所の戸棚にしまってきた。

私が、同じ手袋を毎年編んで置く人がいるのかもしれないと話すと、長谷川さんは、模様が同じだけならそう考えると答えた。それから2019年の袋を開け、「これだけは、私が直したんです」と言った。

2019年の冬、氷から切り出すときに、のこぎりの刃で小指側の端を引っかけ、ほつれさせてしまった。持ち主に返すつもりでいたので、事務所の裁縫箱にあった白い木綿糸で3か所を留めた。裏で結んだ端は、切りそろえずに長く残したという。その年の控えにも「取り出す際に傷め、縫い留めた」と書いてある。

翌2020年に出た手袋を裏返すと、同じ白い糸があった。長谷川さんは初め、袋を取り違えて前年の物を出したと思った。しかし、2019年の手袋は袋の中に残っていた。2つを並べると、同じ所に、長さのそろわない3本の線が出ている。

2021年の物にも、今年の物にも、その跡があった。私は2019年からの4つを裏返し、縫った場所、糸の長さ、結んだ端を見比べた。撮影のために、年を書いた札を手袋の横に置いた。

霧島秀一撮影。机に並べた赤いミトン2つを裏返している。左の札は2019、右は2022。どちらも親指と反対側に白い糸で留めた3か所があり、結び目から糸の端が長く伸びている。
霧島秀一撮影。2022年1月4日、管理事務所で比較した手袋。左が長谷川さんの縫った2019年の物、右が今年氷から出た物。親指と反対側の白い糸と、長く残った端を確認した。

2015年から2018年までの4つに、白い糸はなかった。小指側の傷もない。毎年同じ手袋が出る、と長谷川さんは言っていたが、机の上では、修理より前の4つと、修理の跡を持つ4つに分かれた。

糸の年代や材質を検査したわけではない。それでも、花模様を作る赤い毛糸と、傷を留めるために後から加えた細い糸は、見れば区別できる。同じ型のミトンを用意したというだけでは、修理の位置や糸の端の長さまで似る理由にならない。

事務所には塩谷さんのほか、冬の間だけ手伝う人も出入りする。戸棚に鍵はない。保管した物を手本に、似せて縫うことはできるかもしれない。そう伝えると、長谷川さんは、2019年の手袋は直してから袋へしまい、翌年まで出していないと答えた。ただ、ほかの人が袋を開けなかったと言い切れるわけではない、とも付け加えた。

私は、修理のほかにも後から付いた跡がないか、8つの手首の折り返しを順に見た。2016年の物の折り返しに、小さな穴が1つあった。毛糸の目が2目分、押し広げられたような穴だ。同じ位置の穴は、2017年以降の6つ全部にあった。2015年の物にもある。

長谷川さんはしばらく穴を見てから、最初の年のことを思い出した。2015年の手袋には、拾った日を書いた荷札を、安全ピンで手首の折り返しに留めていた。袋に入れるようになったのは、翌年からだという。2015年の穴は、そのピンの跡だった。

2016年以降の手袋に、長谷川さんはピンを刺していない。2016年の物を拾ったときには、穴はもう開いていた。編み目の緩みだと思って気に留めなかったという。

穴も白い糸も、それぞれの年に長谷川さんが手を加えた跡だった。そして、その年より後に氷から出た手袋には、毎年同じ跡がある。氷の中から出る手袋は、前の冬に事務所へしまった手袋が、しまわれた時の姿で戻っているように見えた。

塩谷さんにも話を聞いた。2020年の手袋を切り出したのは塩谷さんで、白い糸に気づいたが、長谷川さんが前の年と同じように直したのだと思い、何も言わなかったという。「そういう人だから」と塩谷さんは言った。

塩谷さんがこのスケート場で働き始めたのは2017年の冬で、最初の年の荷札のことは知らなかった。手首の穴にも気づいていたが、編み目の傷みだと思っていたという。「毎年、同じ店で買った同じ手袋なんだろうと思っていました。直した跡まで同じだとは、並べてみるまで考えなかったです」

今年の手袋も、小指側の白い糸の端が長く伸びている。長谷川さんは袋へ戻す前に、その端へ指を近づけた。客の指が引っかかると悪いので、短く切って留め直そうか、と言い、棚の裁縫箱を見た。

長谷川さんは裁縫箱を開けなかった。今年の手袋を裏返したまま袋に入れ、袋の口を折った。年を書いた字の横に、「さわらない」と書き足して、戸棚のいちばん奥へしまった。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 ※ が付いている欄は必須項目です