骨董市の留守番電話のテープに関する奇妙な記録

情報提供者撮影。机の上の古い留守番電話の機械と、小さなカセットテープ。横の段ボール箱に古い家電が入っている。

古い留守番電話の中には、前の持ち主が消さずに残した伝言のテープが、そのまま入っていることがある。

留守番電話は、電話に出られないときに代わりに応答し、相手の声を小さなカセットテープへ順に録る機械だ。1件の録音が終わるたびに、機械の声が受けた日と時刻を読み上げる。この日時は本体の時計で決まり、電源が切れると時計は初めに戻る。新しい伝言が録られるのは、電話線から呼び出しがあり、機械が応答したときだけである。

南條市に住む後藤裕也さん(34歳)は、古い家電を集めている。2022年1月16日の日曜日、神社の境内で開かれた骨董市で、1990年代の留守番電話を500円で手に入れた。買ったのは14時ごろだった。

家でふたを開けると、小さなカセットテープが入っていた。電源をつないで再生すると、伝言が3件残っている。最後の年配の男性の声が、後藤さんを名字と名前で呼び、「1月の、16日に伺います」と言った。その日は、留守番電話を買った日だった。男性の声に、後藤さんは聞き覚えがない。親類や近所の年配の男性を何人か思い浮かべたが、誰とも似ていなかったという。

その後に、機械の声で「1月16日15時10分」と入る。後藤さんが家に帰ったのは16時過ぎで、15時10分には、留守番電話を袋に入れて持ち歩いていた。ただ、機械の時計は、家で電源を入れると1月1日0時から始まった。テープに残る日時が、録音した日を正しく示しているとは限らない。

日時は本体のボタンで合わせ直せる。前の持ち主が、どこかの年に時計を合わせて使い、その年の1月16日15時10分に伝言を受けたのなら、同じ読み上げになる。機械の声は年を言わないので、何年の1月16日なのかは分からない。

後藤さんは出店者に名前を教えていない。値段を聞き、現金を払っただけだった。別の年に、同じ姓名の誰かへ訪問を告げた伝言が、たまたま残っていた可能性はあった。

「名字だけなら偶然もあるでしょう。でも、下の名前まで、普段家族が呼ぶような言い方で呼ばれたんです。それで、急に家の中が狭く感じました」

1月16日に誰かが訪ねてきた覚えはない。後藤さんはテープを取り出し、本体の電源を抜いた。それでも、残りの2件も聞いてほしいと私へ連絡してきた。

私はまず、出店者を探した。2月3日、骨董市の世話役をしている神社の総代の男性に尋ねると、出店の申し込みは毎回、紙の名簿に書いてもらうという。1月の名簿には、留守番電話を並べていた区画に屋号と電話番号があった。番号に掛けると、使われていないという案内が流れた。その出店者は、2月の市には申し込んでいなかった。総代の男性は、60代くらいの女性で、1月が初めての出店だったと覚えていた。古い電話機や電卓を、値札を付けずに並べていたという。

2月5日、私は後藤さんの家でテープを初めから聞いた。1件目は薬局の女性が薬の受け取りを案内する声で、「平成8年」と言っている。1996年のことで、古い録音という印象に合う。2件目は、子どもが「おばあちゃん、またあとで電話するね」と話す短い伝言だった。

後藤さんが気にしていたのは、3人とも、声の前に同じような音が入ることだった。紙を2回払うような音がして、少し間が空いてから話し始める。別々の所から掛けてきた電話より、同じ部屋で順番を待っている人の録音にも聞こえた。

私は、その音が本体の動作音なのか、テープに録られた音なのかを確かめたかった。そこで、テープを留守番電話とは別の再生機へ移した。

霧島秀一撮影。木の机の上にある別の再生機。開いたふたの中に、赤い帯のある小さなカセットテープが入っている。
霧島秀一撮影。テープを別の再生機へ移して確かめた。写真はふたを開けた状態で、留守番電話とは別の機器である。

機器を替えても、同じ所で同じ音がした。テープに録られた音である。私は3件を続けて再生し、その音を小型の録音機へ録った。

これだけなら、誰かが伝言を演じて録音したのかもしれない。後藤さんも、名前を知る人の仕込みなら、何をしてほしかったのだろうと話した。

再生が終わり、後藤さんはカセットを取り出した。私は録音機も止め、手帳のページを2枚めくって、再生した時刻を書いた。後藤さんが「もう来てる、ってことですかね」と言うので、私は、いつの録音かもまだ決められないと答えた。カセットはその間、机の上にあった。

もう一度聞くと、最後の男性が「伺います」と言い終わった後に、後藤さんの声が入っていた。

「もう来てる、ってことですかね」

後藤さんは再生機を止めず、私を見た。続いて、先ほどの私の返事も聞こえた。機械の日時の声が入るのは、その会話の後になっていた。読み上げる日時は「1月16日15時10分」のままだった。

私は先に録音機へ保存した音声を聞き直した。そちらでは、男性の伝言から日時の声へそのまま続き、私たちの会話はない。

間違えて録音ボタンを押したのか。後藤さんは操作したボタンを確かめた。この再生機は、後藤さんが語学の勉強用に中古で買った物で、聞くための機能しかない。録音のボタンは初めから付いていない。それに、追加された会話をしたときには、カセットは再生機の外にあった。そこで私は巻き戻したカセットを受け取り、手に持ったまま、いま起きたことを録音機へ説明した。

「テープは私の手にあります。これから後藤さんに渡します」

机に置いた録音機は、その後も止めなかった。後藤さんへカセットを渡し、私は横から、再生機へ入れるところと操作を見た。最後の伝言の後には、先ほどの会話に続いて、いま私が言った2文まで入っていた。録音機には、私がじかに話した声と、再生機から聞こえた声の両方が残った。

後藤さんは、しばらく再生機の小窓を見ていた。テープは、私の2文の後で何も入っていない部分へ進んでいた。後藤さんはそこで再生機を止めた。

「留守番電話って、出られないときに代わりに聞いておく機械ですよね。じゃあこのテープは、いま誰の代わりに聞いているんでしょう」

後藤さんがお茶を入れに台所へ立った間に、私は録音機の音声を、イヤホンで聞き直した。テープから流れた後藤さんの声の前に、紙を2回払うような音が入っていた。前の3人の声の前にあった音と、同じ長さ、同じ間に聞こえた。録音機の画面で波の形を並べると、2回の音から声が始まるまでは、4件ともほぼ1秒だった。あの会話の直前に、私は手帳のページを2枚めくっている。私の2文の前には、その音はなかった。カセットを手に持って話したとき、私は手帳を開いていなかった。

カセットは机の上にあり、何にもつながっていなかった。会話と同じように、ページをめくる音も、そのカセットへ入ったことになる。前の3件の音が、それぞれ誰の何の音だったのかも、私には分からない。台所から戻った後藤さんに、私はそのことを話した。後藤さんは私の手帳を見て、しばらく黙っていた。

留守番電話の本体は、電源を抜いたまま棚にある。現象が本体の機能なのかを調べるつもりで取り出したテープに、機器へ入っていなかった間の声が加わっていた。

私はそれ以上、テープへ何かを吹き込むつもりで話しかけることはしなかった。最初の3人が誰なのか、薬局の案内が本当の電話だったのかは、調べられていない。

後藤さんは録音を保存するための箱を出した。カセットを袋へ入れる前に、「これで切れていますか」と私に聞き、答えを待たずに口を閉じた。その言葉が入ったかどうかは、再生しなければ確かめられない。

後藤さんは箱に添える紙を1枚だけ用意し、ページのある帳面は使わなかった。紙には、最後に再生を止めた時刻と、その後は聞き直していないことを書いた。書き終えると、紙を裏返さずに箱の上へ置き、ふたの端を指で押さえた。

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