南條市の自転車店のチューブに関する奇妙な記録

霧島秀一撮影。建物の裏にある屋根のない駐輪場。白線のそばに、前かご付きの紺青の自転車と、離れた位置に銀色の自転車が止めてある。

地方の自転車店では、修理で外したチューブを、客に見せてから捨てることが多い。どこに穴があったかを示せば、交換の理由が伝わるからだ。見せた後のチューブは、たいてい作業場の隅の箱へ入れられ、月に一度まとめて処分される。

北都県南條市の自転車店に、同じ青い自転車から外したチューブが3本残っている。店主の木村さん(仮名、66歳)は40年近く店を開けてきたが、外したチューブを客のために取っておいたのは初めてだという。

持ち主は由紀さん(仮名、44歳)。2022年10月、勤め先の駐輪場で、自転車の後輪の空気が抜けているのに3度気付いた。3度目の翌日、同じ部署の洋一さん(仮名、47歳)が、3回とも自分が自転車を傷つけたと会社へ認めた。由紀さんが帰れなくなるたびに、自宅まで車で送っていた人だった。

私は11月5日、由紀さんの了承を得て、木村さんから3本を見せてもらった。どれも後輪のタイヤの内側に入っていた、空気をためるゴムの管である。1本ずつ袋に入れ、外した日を書いた紙札を付けてあった。

最初の修理は10月5日だった。傷があり、古くもなっていたため交換したという。ところが、翌週にも同じ客が来た。木村さんは原因を調べるため、廃棄前の箱に残っていた最初の1本を取り出し、2本目と一緒に保管した。3本目を外したときには、由紀さんからも捨てないでほしいと頼まれていた。

木村さんは、修理のたびに傷の位置を写真に撮っている。1本目の傷はバルブから離れた外周、2本目は側面だった。どちらも、刃物を押し当てたような短くまっすぐな切れ目だと木村さんは話す。

木村さんが袋を開け、3本を作業台へ離して置いた。写真と見比べると、1本目の切れ目の位置が合わない。木村さんは、初めは袋を取り違えたのかと思ったという。

撮影を終え、木村さんが片付けようとしたとき、由紀さんが1本目を指さした。管の外側にあった短い裂け目が、端からつながっていくところだった。

誰も管には触れていない。切れた縁どうしが寄り、その間に黒いゴムの面ができて、割れていた線が消えていく。隣の2本目では、バルブのすぐ横に、新しい切れ目が開き始めた。一方から傷がなくなるのに合わせて、もう一方に同じ長さのまっすぐな切れ目が延びた。由紀さんと木村さんと私は、2本が離れたまま変わるところを見ていた。

動きが止まってから、木村さんはそれぞれを元の袋へ戻した。以前の傷がいつ移ったのかは分からない。ただ、この現象がパンクを起こしたと考える理由もない。洋一さんは3回とも自分がやったと認めており、会社の防犯カメラにも、後輪のそばへかがみ込む洋一さんが映っている。

私は見た順序を手帳に書き、3本を作業台に並べ直して撮った。紙札は、記載面を伏せて写した。

霧島秀一撮影。自転車店の作業台に、取り外した黒いゴム製のチューブ3本を並べている。それぞれに、無地の裏面を向けた小さな紙札が付いている。
霧島秀一撮影。2022年11月5日、店で保管していた3本のチューブ。発見日を書いた紙札は、記載面を伏せて撮影した。傷ができた原因や日時は、写真だけでは分からない。

3度目は10月24日だった。由紀さんが会社へ申し出ると、上司がその日の防犯カメラ映像を保存した。会社と由紀さんの許可を得て私も見たが、昼休みに洋一さんが青い自転車の後輪付近へかがみ込むところまでしか分からない。何を手に持ち、どこへ触れたのかは車体に隠れていた。

上司に映像を示された後、洋一さんはメールで3回の行為を認めた。由紀さんに見せてもらった文面には、「帰りに2人で話す時間を作りたかった」とあった。私は洋一さんにも電話で確認し、メールを書いたのは自分だという回答を得た。

由紀さんは自転車通勤を続けていた。仕事の後は図書館へ寄ったり、友人と食事をしたりする。洋一さんとは、雨の日に一度送ってもらってから、帰りの時間を尋ねられるようになったという。

由紀さんの携帯電話には、その後のやり取りが残っていた。10月4日、13日、24日の朝、洋一さんは送迎を申し出ていた。由紀さんは「寄る所があるので」「今日は自転車で帰ります」と断っていた。3日とも、由紀さんが仕事を終えて駐輪場へ行った夕方には、後輪の空気が抜けていた。

初めの2回は、洋一さんが顔見知りの自転車店へ電話をかけた。由紀さんは洋一さんと一緒に自転車を押して店へ行き、修理を頼んでいる。その場で洋一さんが「終わったら自分へ連絡を」と言い、由紀さんもうなずいた。帰りは洋一さんの車に乗った。

「その日は助かりました。あの人は店の人も知っているし、連絡まで引き受けてくれたので」

由紀さんはそう話した。壊したのが洋一さんだとは知らず、送ってもらったことへの礼は本心だったという。

店では修理を終えると、紙の控えに日付を書き、連絡先へ知らせる。今回は洋一さんの希望で、短いメッセージを送っていた。私は控えと店の送信履歴を並べて見た。最初は10月5日、2度目は14日。どちらも預かった翌日の昼には修理が終わり、その日の夕方から受け取れると伝えていた。

由紀さんの電話には、それと違う知らせが残っていた。5日の夕方、洋一さんは「部品待ち。明日には」と送っている。14日には「今日は間に合わないそうです」。由紀さんはどちらの日も、まだ受け取れないと思い、洋一さんの車で帰った。

木村さんは部品を取り寄せていなかった。2回とも店にあるチューブを使い、連絡した時点で自転車は受け渡せる状態だった。由紀さんが受け取ったのは、それぞれ翌日の6日と15日である。

洋一さんは私への電話で、修理完了の連絡を受けていたことも認めた。由紀さんへ別の説明をした理由を尋ねると、「パンクした翌日も送るつもりで、予定を空けていた」と答えた。

控えを見せてもらったとき、私は連絡先の欄に目を留めた。洋一さんの携帯番号の横に、鉛筆で「ご主人」と書き込まれている。1回目と2回目の控えの両方に、同じ書き込みがあった。

木村さんによると、最初に2人で来た日、洋一さんが受付で「うちのが乗っている自転車で」と言ったという。木村さんは夫婦だと思い、そう書き添えた。由紀さんはそのとき、店の奥で自転車を作業台へ載せるのを手伝っていて、受付の会話は聞いていなかった。

「店の人も知っているから、と思っていたんです。店の人は、私のことを知らなかったんですね」

由紀さんは、自分がうなずいた「自分へ連絡を」という言葉が、店でどう受け取られていたのかを、このとき初めて知った。控えの上では、2回の修理は、夫が妻の自転車を預けたことになっていた。

3度目のパンクの翌日には、由紀さんが自分で店へ電話した。前の晩、友人から「修理にそんなに日数がかかるのか」と聞かれたためだった。25日の昼、木村さんは作業が終わったと答えた。3回目の控えの連絡先には、由紀さん自身の番号が書かれている。洋一さんからは、その朝にも翌日の送迎について連絡が来ていた。

由紀さんは友人と店へ行き、青い自転車を受け取った。同じ日に会社から洋一さんのメールを見せられ、警察にも相談した。取材時点では、会社を通して修理代の負担や今後の連絡方法を話し合っており、由紀さんは洋一さんの車に乗っていない。

由紀さんは、5日と14日の完了連絡を店から写してもらっていた。洋一さんから届いた別の説明と日付ごとに並べ、帰りの予定を変えさせられた日として会社へ伝えるつもりだという。チューブの傷がどう動いても、その日に受け取った知らせは残っている。

由紀さんは木村さんに、控えの「ご主人」の書き込みを消してほしいと頼んだ。木村さんは書き込みを消さず、横に「誤り」と書き足した。会社に出すとき、書き込みがあったこと自体が要るかもしれないからだという。

取材を終えると、由紀さんは店先に止めた青い自転車へ向かった。木村さんが、3本のチューブはこれからも店で預かると声をかけた。由紀さんは振り返り、持ち帰るつもりはないと答えた。

「この自転車から、3回とも外したんですよね」

木村さんはうなずいた。由紀さんは後輪を押して空気を確かめたあと、もう一度、店の中の3つの袋を見た。2本目の袋の中で、バルブの横の切れ目は、まだ開いたままだった。

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