柳瀬市のアイビーに残した鉢の破片に関する奇妙な記録

霧島秀一撮影。2023年4月6日、ベランダの作業用シートに置かれた白い陶器の植木鉢。白い縁のあるアイビーのつるが片側へ垂れ、そばには植え替え用の樹脂製の鉢と土がある。

鉢植えの植え替えでは、根が鉢に張り付いて抜けないとき、鉢を割って株を救うことがある。たいていは割った破片が根からすぐ外れ、土と一緒に捨てられる。外れない破片が残るのは、素焼きの鉢の細いひびに根が入り込んでいた場合くらいだ。

植え替えるために鉢を割っても、根から外れない破片が残った。白い陶器の両面から、アイビーの根が出ていた。破片を少し横へ動かすと、根が出る位置も、ひびのない白い面の上を移った。

その鉢の持ち主は、北都県柳瀬市に住む荒籾美佐さん(57歳)である。2023年4月6日、私は荒籾さんの家のベランダで、植え替えに立ち会った。作業をしていたのは、市内の園芸店で働く篠海孝之さん(34歳)だった。

荒籾さんは4年前から、居間の窓際でアイビーを育てている。葉に白い縁のある株で、長くなったつるを棚の片側へ垂らしていた。今年はつるを切って水に挿し、根が出たらもう1鉢に植えるつもりだった。窓の反対側にも同じ葉を垂らせるよう、小さい鉢も買ってあった。

今の株には、2年前から直径15センチほどの白い陶器の鉢を使っていた。市内の雑貨店で買った物で、外側にはつやのある釉薬が掛かっている。底には水を抜くための穴が1つある。4月2日、受け皿を洗おうと持ち上げると、鉢の下から茶色い根がはみ出し、その先が受け皿にたまった水に浸かっていた。春になったら大きい鉢へ移そうと考えていたので、その日のうちに土と新しい鉢を用意したという。

土の塊を崩さずに抜こうとしたが、下の方が離れなかった。鉢底の穴に根が絡んでいるのかと思い、鉢を横へ寝かせた。根は底の穴から出ているのではなかった。底の少し上、丸くふくらんだ側面から伸び、鉢の下へ回っていた。

「細いひびに入ったんだと思いました。無理に引いたら、根が切れるでしょう」

荒籾さんは抜くのをやめ、土を買った園芸店へ電話をした。翌3日、篠海さんが見に来た。根の周りをぬれた布で拭いても、白い表面にはひびが見つからなかったという。篠海さんは、根を残して植え替えるなら鉢を割る必要があると説明した。荒籾さんは了承したが、その前に一度見てほしいと、私へ写真を送ってきた。

篠海さんによれば、鉢の中の根は水と空気を求めて伸び、たいていは底の穴から外へ出る。素焼きの鉢なら、目に見えない細いひびへ根が入り、太りながら割れ目を広げることもある。しかし、釉薬を掛けて焼き締めた陶器は水を通さず、根が入り込む隙間がない。篠海さんは仕事で何百鉢も植え替えてきたが、釉薬の掛かった鉢の側面から根が出ているのは見たことがないと話した。

6日の午前、鉢はベランダの作業用シートに置かれていた。底の穴は空いており、その脇の側面から鉛筆より細い根が1本出ていた。根は外で枝分かれしている。私は鉢を傾けてもらい、穴と根の出ている場所を一緒に見た。根の付け根の周りを虫眼鏡で見ても、白い釉薬の面は続いていた。篠海さんが鉢の内側から懐中電灯を当てたが、根の周りから光が漏れることはなかった。

篠海さんは土がこぼれないよう株を横へ寝かせ、根から離れた所で鉢を割った。周りの破片を取り除き、土の外側を少しずつほぐした。内側にも、陶器へ向かう根が見えてきた。

最後に残ったのは、手のひらに収まるほどの白い破片だった。根は土の中から破片の裏面へ入り、表面から出て、シートの上で枝分かれしていた。篠海さんが根の周りの土を落とすと、破片の縁を回ってつながっている部分はなかった。

篠海さんは、根を通した穴の周りを割って取り除くつもりだったと話した。しかし、根の付け根に見えるのは滑らかな白い表面だけだった。割れ口にも、根の通る溝は見えなかった。

篠海さんは根を引っ張らないように、破片の両端を持った。土と根をシートに置いたまま、破片だけを右へ少しずらした。

根は、元の位置に横たわっていた。その根が白い面から出る場所は、破片の中央寄りから左へ移った。穴ごと動いたのではない。さっきまで根が出ていた所には、白い表面が途切れずに続いていた。線状の割れ目が開いたり、陶器が削れて落ちたりする様子もなかった。

私は破片の斜め横から見ていた。表面から出た根だけでなく、裏面へ入る根も見えている。根は破片の下へ回り込まず、陶器の厚みを挟んでつながったままだった。白い面を、根の付け根が滑っていくように見えた。

指1本の幅ほど動かした所で、篠海さんは止めた。破片の縁が、枝分かれした細い根へ触れた。荒籾さんも、それ以上動かさないでほしいと言った。篠海さんは破片を元へ戻さず、根ごとシートへ下ろした。

陶器は硬いままだった。私は動かした後の位置で、表面と根が見えるように写真を撮った。1枚の写真からは、根が最初に出ていた位置までは分からない。私が見たのは、根の通る所が移り、その後に穴や傷が残らなかったという変化である。

霧島秀一撮影。2023年4月6日、土の付いたアイビーの根と白い陶器の破片。手のひらほどの湾曲した破片の両側に細い茶色の根が続き、手前へ出た根は枝分かれしている。
霧島秀一撮影。2023年4月6日、植え替え作業中。根の付いた白い鉢の破片をシートへ下ろしたところ。手前の白い面から根が出ており、周囲に穴や割れ目は見えない。

篠海さんは、根の周りをさらに割るのをやめた。

「割れば外れると思っていました。外れないなら、どこまでが根で、どこからが鉢なのか、私には分けられません」

荒籾さんは、ここで根を切ってよいのか判断できないと話し、破片を残すことを選んだ。

その日は、破片を付けたまま、ひとまわり大きい樹脂製の鉢へ移した。篠海さんは破片の角をほかの根へ当てないように置き、周囲へ土を足した。古い鉢から解放するための植え替えだったが、白い破片は新しい土の下に残った。

原因は分かっていない。いつから根が陶器を通っていたのかも、2年前に植えたときの様子からは確かめられなかった。篠海さんは取材後も荒籾さんと連絡を取り、葉がしおれていないかを聞いている。

割った鉢のほかの破片は、篠海さんが袋に集めていた。私は一つずつ割れ口を見せてもらった。どの割れ口も白い土の色で、根が通った跡や、茶色く染みた筋は見当たらなかった。根を抱えたまま残った破片だけが、ほかと変わらない陶器のまま、根の通り道になっていた。

4月17日、私は荒籾さんの家を再び訪ねた。新しい鉢は元の棚に戻されていた。荒籾さんに頼んで、鉢を持ち上げて底を見せてもらった。底の穴の脇も側面も、まだ滑らかな樹脂のままだった。植え替えたときに小さく畳まれていた葉が開き、つるの先は前より長くなっていた。荒籾さんは篠海さんに写真を送り、ひとまず枯れずに育っているので心配はない、と返事をもらったところだった。

荒籾さんは、今年は挿し木をしないことにしたという。切ったつるから出る根にも、同じことが起きるかもしれない。そう考えると、もう1鉢を作る気にはなれなくなったと話した。新しい鉢や棚に異変が見つかったわけではない。

「これを枯らしたいわけじゃないんです」

荒籾さんは、小さい空の鉢を棚から下ろして戸棚へしまった。私は窓際の株を見た。植え替えの前と同じように、白い縁の葉が棚から垂れている。土の中の破片は見えなかった。

水やりのときには鉢を持ち上げ、底を見ているという。鉢底の穴から根が見えたら植え替えるつもりだった荒籾さんは、今は穴の周りだけでなく、鉢の側面まで指でなぞっている。

荒籾さんは、伸びたつるを窓の空いている側へ持っていった。そこへもう1鉢を置けば、両側から葉が垂れるはずだった。しばらく長さを見てから、つるを今の鉢の上へ戻した。空いた側の棚には何も置かなかった。そのあと土の表面を確かめ、乾いていたので、今の鉢を台所へ運んで水をやった。

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