柳瀬市の公園のケヤキのセミの抜け殻に関する奇妙な記録

霧島秀一撮影。夜のケヤキの幹に、薄い色の羽を伸ばしたセミがとまっている。そのすぐ下には背が裂けた茶色い抜け殻があり、殻の下に斜めの白い擦り傷が見える。

夏の公園の木の幹には、毎年同じ高さに、セミの抜け殻が並ぶ場所があることがある。幼虫が土から出て木を登り、決まった辺りで殻を脱ぐからだ。

北都県柳瀬市の住宅地に、遊具が少しあるだけの小さな公園がある。2024年7月30日の火曜日の夕方、私はそこで、近所の人たちが開くセミの羽化の観察会に参加した。案内役の榎戸千津香さん(58歳)から、見に来ないかと誘われていた。榎戸さんはこの公園でよく虫の写真を撮っている。私にとっても、その日は奇妙な出来事を調べるための訪問ではなかった。

羽化を見るのは初めてだという菅巻信吾さん(41歳)も来ていた。仕事帰りに立ち寄り、懐中電灯と小さなカメラを持っていた。抜け殻は毎年見つけるが、中から出てくるところは見たことがない、と話した。観察会には、ほかに親子連れが3組来ていた。

セミの幼虫は何年も土の中で木の根の汁を吸って育ち、夏の夕方に地上へ出てくる。木や草を登って足場を決め、背を割って成虫になる。成虫は夜のうちに体を固め、朝には飛び立つ。殻だけが幹に残る。

公園の端には、幹の低い所まで手が届くケヤキがあった。その手前の舗装路を、茶色い幼虫が歩いていた。菅巻さんがかがんで拾おうとすると、榎戸さんは、すぐ脇に落ちていた枝を差し出した。幼虫が枝につかまるのを待ち、菅巻さんに幹へ近づけてもらった。

幼虫は枝から木へ移り、上へ登った。榎戸さんは、登る途中で舗装路へ迷い出ることがあるので、踏まれる場所にいるときだけ移していると話した。殻を脱ぎ始めたら触らずに見る。菅巻さんは使った枝を木の根元に置いた。

19時過ぎ、その幼虫は私の胸ほどの高さで止まった。背に細い裂け目ができ、白っぽい体が出てきた。頭と足を抜き、しばらく後ろへ反り返っていた。やがて起き上がって殻につかまり、腹まで外へ出た。小さく縮んでいた羽が、体の両側で少しずつ長くなった。

榎戸さんはアブラゼミだと言った。私は、羽を広げた成虫と、その足元の殻を撮った。幹には斜めに白い擦り傷があり、殻はそのすぐ上に付いていた。

羽が伸びきったところで、その晩の観察会は終わった。榎戸さんは、朝には飛び立つところが見られるかもしれない、と説明した。菅巻さんが、そこまで見たいと言ったので、翌朝5時にもう一度会うことになった。私も来ると答えた。ほかの参加者は帰り、夜の間は誰も見ていなかった。

31日の5時前、私は2人と同じ木の前に立った。公園にはまだ人がおらず、ほかの木からアブラゼミの鳴き声が聞こえ始めていた。擦り傷の上には、背の開いた殻が残っていた。裂け目から中が見え、空だった。すぐ脇の幹に、茶色い羽を重ねた成虫がつかまっていた。昨夜見た個体がずっとそこにいたのかは分からないが、私たちはその成虫が動くのを待った。

セミは羽を少し開き、幹を数歩下りた。榎戸さんがカメラを構えた。セミは飛ばず、空の殻の上へ足を掛けた。頭を上にしたまま腹を曲げ、背の裂け目へ先端を入れた。

最初は、何かに引っ掛かっているのだと思った。ところが、腹が少しずつ殻へ入っていった。はみ出していた羽の先が、体の側へ引かれて短くなった。羽を重ね直したのではない。羽の筋が寄り、端が細かく波打ちながら、左右とも縮んでいた。

菅巻さんは、出てくるところを見ているのかと尋ねた。榎戸さんは答えなかった。私はカメラを下ろし、横から見た。初めに殻へ入った腹は、もう外に見えなかった。長かった羽は小さな塊になり、足の付け根の脇に収まっていた。

セミは頭を反らし、後ろ足を1本ずつ内側へ引いた。体の大部分が殻に隠れ、頭と前足だけが外に残った。前足が動くたびに頭が低くなり、やがて茶色い縁の内側へ沈んだ。

誰も木やセミに触れていなかった。空だった背の裂け目は内側からふさがり、左右の縁が閉じた。そこに残った姿は、昨夜、木を登っていた幼虫と同じだった。広い羽はどこにも残っていない。成虫が殻の上に足を掛けてから背が閉じるまで、私の時計で20分ほどだった。

殻だと思っていた足が、幹から1本外れた。続いて反対側の足が動き、幼虫は頭を下へ向けた。私はその姿を撮った。さっきまで殻の内側を見通せた場所で、閉じた背が上下していた。

霧島秀一撮影。斜めの白い擦り傷のすぐ上で、茶色いセミの幼虫が頭を下に向けてケヤキの幹につかまっている。背は閉じ、長い羽や別の抜け殻は見えない。
霧島秀一撮影。2024年7月31日朝、同じ木。成虫が体を入れた後、背が閉じ、足を動かして下り始めたところ。羽は外に残っていなかった。

私はまず、別の2匹を見間違えた可能性を考えた。成虫が殻の陰から飛び去り、その近くに羽化の遅れた幼虫がいたのなら、似たように見えるかもしれない。しかし私たち3人は、成虫が殻へ体を入れ始めてから背が閉じるまで、目を離していない。殻の中に別の幼虫が残っていたのでもない。昨夜、成虫が抜け出た後の殻の裂け目を、私は懐中電灯で照らして見ている。幹の下を探したが、茶色い羽も、ちぎれた体もなかった。榎戸さんは、こんなところは初めて見た、と言った。その朝、私たちの前でこの変化を見せたセミは1匹だけだった。夜に羽化した個体と同じかどうかは分からない。

擦り傷の上を見直すと、昨夜からそこにあった空の殻はもうなかった。殻だと思っていた物は、背を閉じたこの幼虫になっていた。

幼虫は幹を下り続け、私たちもそれに合わせてかがんだ。根元で幼虫は舗装路の縁へ出た。段差から転がり、背を下にして足を動かした。菅巻さんは昨夜使った枝を拾い、足の近くへ差し出した。幼虫は枝につかまり、体を起こした。

菅巻さんは枝を立て、先を木の幹へ寄せようとした。榎戸さんが菅巻さんを呼び止めた。

「下へ向けてください」

榎戸さんは根元の土を指した。菅巻さんは枝を傾け、先を土に付けた。幼虫は枝の先へ進み、地面へ下りた。前足で土をかき、小さなくぼみへ頭を入れた。私たちは足を引き、幼虫の周りを空けた。

幼虫が土に潜り始めた所は、舗装路の縁から一歩も離れていなかった。榎戸さんはその縁を見ながら、この道は去年の春に舗装されたのだと話した。それまではケヤキの周りまで土で、夏になると、幼虫の出てきた小さな穴がいくつも開いていた。雨の日にぬかるむという声があり、市が舗装したのだという。

「舗装されてから、道の上を歩いている幼虫を見るようになったんです。縁の隙間から出てきて、どこへ登ればいいか分からないみたいに。だから、見つけたらこの木へ移すようにしていました」

幹の白い擦り傷は、榎戸さんがこの1年、枝を当てて幼虫を移してきた跡だった。いつも同じケヤキの、同じ高さに枝の先を寄せていたという。榎戸さんがスマートフォンで見せてくれた去年7月の写真では、同じ幹に擦り傷はまだない。去年の夏に移した幼虫は23匹、今年はこれまでに14匹だった。移した幼虫が殻を脱いだかどうかは、毎朝、幹の殻を数えて確かめてきたという。昨夜の幼虫も、その傷のすぐ上で殻を脱いだ。

アブラゼミの幼虫は、土の中で6年ほど過ごすと言われる。今年出てきた幼虫は、道が舗装されるずっと前から、この根元の土にいたことになる。榎戸さんは、自分が移した幼虫のほとんどは、舗装の下から縁の隙間を伝って出てきたのだろうと言った。

「出てくるところを見に来たのに、戻るところを見ましたね」

菅巻さんはそう言ってから、榎戸さんに、木へ戻さなくてよいのかと尋ねた。榎戸さんは土から出ている背を見たまま、今はこっちへ行こうとしているから、と答えた。菅巻さんは枝を横に寝かせた。

幼虫の腹の先まで土に隠れると、菅巻さんは枝を拾った。榎戸さんは、足元を見て道へ戻るよう言った。菅巻さんはうなずき、カメラを首から下げた。幼虫が潜った土を踏まないよう、根元を大きく回り込んで舗装路へ出た。

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