地方の小学校のプールは、毎年6月に水を張る前の点検を受ける。底や壁にひびが見つかれば、その年は水泳の授業をやめて修理を待つことになる。修理の時期は、学校を持つ市の予算で決まる。
北都県南條市の南條第一小学校の用務員室には、青いビート板が25枚置かれていた。泳ぐ練習で胸の前に持つ、浮く板である。用務員の中西和男さん(仮名、63歳)は7月27日から毎朝、使用を中止したプールで1枚ずつ見つけ、ここへ運んでいた。
このプールは2022年6月の点検で底にひびが見つかり、6月20日に水を抜いた。修理は9月からの予定で、この年の水泳は中止になった。周囲にはロープを張り、立ち入らないよう知らせていた。
それでも、7月27日以降の中西さんの日誌には、毎朝、深い側に水がたまっていたと記されている。中西さんはポンプを動かすと、浮いている板を拾っていた。水が抜けた底に何もないことを確かめ、板を用務員室へ運ぶ。翌朝にはまた水と板があった。
「雨の後なら分かるんです。でも、晴れが続いた朝も同じでした」
8月18日の1時ごろ、近隣の男性、片岡隆夫さん(仮名、58歳)が110番した。プールから水をはね上げる音と、子どもの笑い声のようなものが聞こえる。夜中に誰かが泳いでいると思ったという。
警察官が当直の職員と入ったとき、人はいなかった。入口には鍵がかかり、フェンスを越えた跡も見つからなかった。深い側には約5センチの水があり、青い板が1枚浮いていた。その朝の分を加え、中西さんが回収した板は23日間で23枚になった。
私は8月20日7時、中西さんとプールへ行った。低い所に約4センチの水があり、その日も板が1枚浮いていた。泳げる深さではないが、ビート板が浮くこと自体は不思議ではない。私は縁からプールの写真を撮り、中西さんと底へ下りた。
中西さんがポンプを動かした。この朝は、私に底のひびを指して説明しながら、水が引くのを待っていた。ひびは深い側の壁際から斜めに延び、長さは2メートルほどあった。水面が下がるにつれ、底が広く露出していく。青い板の高さは変わらなかった。
板の下から水がなくなっても、板は水面にあったときの高さに残っていた。私はしゃがみ、顔を底に近づけた。板の下面とプールの底との間には、水のない隙間があった。向こう側まで見通せ、板を支える物はなかった。周りの水はポンプの方へ流れていた。中西さんも身を低くして、板の下を見た。
中西さんは板の下へ手を入れ、いつもの回収と同じように持ち上げた。板は手に載り、そのまま抱えて運べた。私たちは用務員室で、ほかの板と合わせて25枚を数えた。7月27日から8月20日までの25日間と合う。
私は学校の了解を得て、板の縁や表面の傷を撮影した。次の写真は、通報の日から3日間に回収した3枚である。日付のラベルは中西さんが付けている。

古い型の板が校内に残っていた理由は、学校への照会で分かった。ビート板は2015年に取り替えられ、備品台帳には「処分」と記されていた。当時の担当者によると、水泳用の備品から外すという意味で、一部は行事用の道具を置く倉庫へ移していた。今の教職員には、その行き先が引き継がれていなかった。
私は教頭に頼み、その倉庫を開けてもらった。棚の一番下に、古いビート板を入れていたという空の段ボール箱があった。箱の側面には「ビート板(旧) 25」と書いてある。中には1枚も残っていなかった。倉庫の錠に壊れた跡はなく、鍵は職員室で保管している。
中西さんは初め、古い板を捨てに来る人がいるのかと思ったという。倉庫から誰かが運んだ可能性は残る。中西さんによると、水道メーターは前日の片付け後と翌朝で大きく変わっていなかったが、雨水の流入や、学校の水道を使わない持ち込みまでは除けない。ただ、板と水を入れた方法が分かっても、20日に水が抜けてから見た隙間の説明にはならない。
片岡さんは、警察を待つ間に短い動画を撮っていた。家からプールの中は見えないが、水音と声は録れている。私は本人の了承を得て学校の職員に聞いてもらった。以前の水泳担当者は、笑い声の後の金属音が、かつてプール脇にあった物入れのふたを閉じる音に似ていると話した。ビート板をしまっていた物入れで、2015年に撤去されている。
学校には、保護者向けの行事で撮影した映像が残っていた。2014年夏の映像に、水が大きくはね、短い笑い声が重なり、少し後でふたが鳴る場面があった。私は夜の録音と聞き比べた。夜の方は遠くの音で細部までは分からないが、水音、声、金属音の間隔がよく合っていた。
学校の映像で、その並びが聞こえるのは1回だけだった。片岡さんの録音には、同じ順序の音が2回続けて入っている。昔の映像の音を繰り返し流した可能性が出てきた。録音機やスピーカーは見つかっておらず、再生した人がいたかどうかは分からない。
修理を早めてほしいという要望は、通報以前から学校へ届いていた。翌19日にも「子どもが入ってからでは遅い」という匿名の連絡があった。要望した人が音や板に関わった証拠はない。
教頭は、要望の件で過去の点検記録を出してきた。私が見せてもらった2015年6月の記録には、当時の用務員の字で「深い側 底 ひび 長さ30センチ 要修理」とある。その下に、市の担当課の欄があり、「次年度以降に検討」と書かれていた。
翌年からの記録にも、同じひびの欄が毎年続いていた。長さは少しずつ書き換えられ、2021年には「1.5メートル」になっている。どの年も、市の欄は「経過観察」だった。水泳は毎年行われていた。
2015年の記録を書いた元用務員の男性(72歳)に、教頭を通して話を聞いた。男性は2016年に退職している。ひびのことは毎年校長へ伝え、校長も市へ上げていたと話した。古いビート板を倉庫へ移したのも自分だという。
「捨てるのはもったいないと思ったんです。いつか水が抜けたプールの底で、ひびの場所に並べて、子どもに見せないように囲う目印にでもしようと思って。結局、使わないまま辞めました」
男性は、夜の音にも、匿名の連絡にも心当たりはないと答えた。倉庫の鍵も、退職のときに返したという。学校の鍵の台帳にも、返却の記録が残っていた。
ひびは、7年前の記録の場所から延びていた。今年、修理のために水を抜くまで、子どもたちはその上で泳いでいたことになる。教頭は、2015年の記録を見たのは今回が初めてだと話した。
学校は片岡さんの録音と保存映像を警察へ提供した。私と中西さんが20日に見た板の様子も、警察と修理の担当者へ伝えている。夜の音と、朝の板の状態がどう関わっているかは分かっていない。
学校は見回りを増やし、倉庫の備品と鍵の管理を改めた。片岡さんには知らせてくれたことへの礼を伝えている。中西さんも、今後は板を見つけてもすぐに拾わず、職員に現場を見てもらうことにした。回収した25枚は倉庫の備品とは分け、日付を付けたまま用務員室に置いている。市には、2015年からの点検記録の写しを添えて、修理の時期を早めるよう学校から求めた。
20日の朝、中西さんが板を抱えて離れた後、私はその場所を見下ろした。底にはひびがあり、水はもうなかった。板が浮いていたのは、ひびのちょうど真上だった。中西さんが毎朝、片付けの終わりに確かめていたのも、この状態だった。


